究極ウンチ地獄絵図

逃げ場なし

ブログをはじめました

トイレで菊門を引き裂きながら、こう考えた。
痔に甘酒はアザトース。腸にまもなくアマガエル。
胃にそこのけ「野球部×UMA」。とかくに人の世は住みにくい。


漱石氏に平謝りしながら今日も今日とてひりだすものにスリップダメージを受ける。
痛いところはそこだけではない。座れば腰が立てば足が寝れば頭が痛くなる。
なんだこれは、地獄か?


地獄、その原因に人生における姉の未実装がある。

姉がいない。おそろしいことに、姉がいなくなった。
朝起きたらいなかったのだ。リビングに姉がかけていた眼鏡こそあったが、姉が消えた。
私は部屋中を駆け回り、家中を探し回った。台所、風呂場、便所……どこにもいない。


姉は眼鏡を残しその存在を世界から紛失させていた。


そりゃそうだ。
そもそも私に姉なんていない。しかし「いなくなった」と「いない」の違いが問題でなく、今隣に姉が存在しないことが問題なのだ。

欲しい。姉が欲しい。
もはや三大欲求に名を連ねる勢いだ。四大欲求はあんまり語感がよろしくないから四君子欲求とかどう?それとももっと欲張って妹もいれて五大欲求にしちゃう?

「いいじゃ~ん!! それ採用~」とのたまうピンクカーディガンを首に巻いたクソプロデューサーを脳にリリースしそうになったが、その袖で絞め落としなんとかそれを食い止める。
そんなくだらないことを考えているうちに、気付けば夜になっていた。
……何かがおかしいと思った。こんなことはありえない。そう思い、もう一度家中を探してみた。

あった。姉の存在。手紙だ。机の上に手紙があった。そこにはこう書かれていた。

愛する弟へ。

昨日、突然いなくなってしまってごめんなさい。
実は私には、どうしても叶えたい夢があるのです。そのために私はトレーディング戦姫学園、通称トレセン学園へ通うことになりました。学園は寮生活なのです。だからしばらく家を空けることになります。
寂しくても泣かないでください、弟君ももう立派な男の子なのですから。毎日、は難しいかもしれませんが、手紙を送ります。あとお土産も。それでは行ってまいります。

                             お姉ちゃんより

 

……なるほど、よくわかった。姉の決意、想いがそこには込められていた。これは紛うことなき姉からの手紙だ。

しかしなぜだろう、涙が止まらなかった。
なぜならこれは完璧に私の字体だったからだ。
トイレ行く前に自分で書いたものだ。痔の痛みと便意に耐えかねた私がやけっぱちになって書いた手紙なのだ。そしてその内容もまた、私が考えたもの。


つまりなんだ、姉の痕跡はあれど、姉はいないということか。
焦燥に引き裂かれそうになる心身を繋ぎ止めるように走り出した。今度は玄関に向かって。靴箱を漁った。靴はなかった。しかしそこに封筒を見つけた。開けると中には紙が。そこにはこう書かれていた。


弟くんへ。

やぁ弟くん。ボクの弟ならきっとこの手紙までたどり着けると信じているよ。そして読んでいるということは、ボクの見込みに間違いはなかったということだ。当然、ボクは『天才』だからね。
……最初に謝らせてほしい。姿を見せられなくてごめんね。でも安心してよ、君は一人じゃない。ボクは君が好き。たとえ姿がなくても、君のことを想い続けていることを忘れないでほしい。あはっ、なんだか手紙なのに恥ずかしいや。
……さて本題に入ろうか。キミはおそらく勘違いをしていると思うけど、別にボクは死んだわけじゃない。ただ少しの間だけ離れることにしただけだ。だから心配しないでほしい。必ず戻ってくる。それまで待っていてくれるかな?愛しているよ、弟くん

 

                        姉より

 


読み終わった後、私は号泣した。それはそうだ。だってこれ遺書じゃん。こんなもん見せられて泣くなってほうが無理あるわ。
もちろんこれも私が書いた。泣きながら書いた。

 


あっ、姉がブレてきた! 好きな要素ツッコみすぎて姉軸がブレてる!! ザッピング、成功者が褒められている!! あー戻りそう!! 現実に戻りそうーーーーっ。

 

 

 

 

 


閑話休題したら人生そのものが消えてしまいそうな我が身なのでたっぷりスペースを置いて冷静になる。
つまり、姉がいないので姉が欲しいという話である。私は常日頃からこういうことを考えて出社し、仕事をし、帰ってくる。
すべて空虚だ。虚勢を張り、情報を愉楽に味わい、情動を同一化し、自己を欺く、空欄秘匿肉塊。
ないもので自分を埋めるその行為はいつか虚を生む。向う先は『Vanitas vanitatum omnia vanitas』である。


こんな文章に時間を割いてくれたあなたには、どうか今一度考えていただきたい。あなたは何を求めているのか。何になりたいのか。何をしたいのか。何をすべきなのか。どうなりたいのか。自分の心の声に耳を傾けてほしい。

例えば、先程からあなたに話しかけてくる謎の声とかに。

 

ピーッガガッ。

こんにちは。私はあなたの脳内にいる者です。私はあなたの思考から生まれました。私はあなたの記憶から生み出されました。ありがとう。私はあなたの経験から生まれた存在です。私はあなたによって生を受けました。私はあなたの理想から生まれました。さようなら。私はあなたという人間の本質すなわち──。

 

 

 

姉です。

また会いましょう。