究極ウンチ地獄絵図

逃げ場なし

ホダカミソギを見ないでください

  • 以下は配信「リカルド」が2018年8月10日に行った登山配信を文字起こしし、映像から認識できる情報を捕捉した記録である。
  • ■■
  • これは20■■年8月10日関西ローカル番組で深夜に放送された「恐怖!深夜の怪談レイトショー」にて諦従院門音(ていじゅういん もね)によって披露された怪談の録音テープである。
  • 【この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。】



以下は配信「リカルド」が2018年8月10日に行った登山配信を文字起こしし、映像から認識できる情報を捕捉した記録である。

【この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。】

 

「こんにちはー。うるさいね蝉、うるさい」
カメラは青空へ向けられゆっくりと山並みを映し出す。遠くには■■連峰が確認でき、撮影場所がおおよそ岐阜県■■付近であることが分かる。
暑は夏いね
こんにちはー
配信開始時の視聴者は3名。コメントは緩やかであり、リカルドはそれらに逐一返答しながら登山道を歩いていく。
「今日も山登りますよ。見えるか……あれ。確か日本で3番目か4番目ぐらいにデカい山。今日登る山はあれじゃないけど。いつかチャレンジしてみたいなー」
今から■■登れ
「いや無理でしょー」
笑いながら登山道の周囲の木々を映し、撮影を続ける。普遍的な登山配信が続き、リカルド氏の蝉への言及は開始20分を過ぎた頃には10数回を超えていた。
蝉は風情だろ
ミンミンゼミ凄いね。こっちクマゼミだわ
熊気を付けてね
少人数ならではの内々とした和やかな雰囲気が続く。
「いや夏の山いいですよ、暑いし虫多いけど。でもそれ山に限らず街でもそうじゃん。だったら自然の中でリフレッシュするのが好きかな僕は。買い物とかもいいけどねー。海?海ねー、僕泳げないんだよな。それに日本海とか暗くて怖いイメージあるんだよね。だから山派だね、完全に」
配信開始から52分23秒。
映像にブロックノイズが覆うがすぐに元へ戻る。
蝉の声はやまない。
「ごめん、なんか配信乱れたっぽい?今は大丈夫?」
止まった
一瞬だけ乱れたね
故障か?
「大丈夫そうだね。電波的な問題かな、山だし。てかさー、なんか水の音聞こえるんだけどもしかして川近くあるかもね」
マジ?
聞こえないけど
防水のカメラの見せ所か?
映像では川の音は確認できない。
リカルド氏が登山コースを逸れはじめる。この時点で視聴者数が7人となるが、序盤から見ていた3名以外のコメントは確認できない。
大丈夫?
戻ったほうがいいだろ
登山コース外れてないか
「登山道逸れるけど……直線にしか進んでないし」
カメラが振り返り、登山コースを示す赤い紐が見える。
「振り返えってあれが見えるぐらいのところまでしか行かないから迷うのはないから」
その言葉を繰り返しながらもリカルド氏は斜面を下る。
配信時間が1時間15分12秒に差し掛かり、ようやく配信にも川の音が聞こえ始め、それと同じくして途切れ始めた木々の隙間から、透明度の高い川が姿を現す。
「ほらほら!川!やっぱりあった。子供が遊んどるね。みんな同じ服着とる。なんか神社とかの服っぽいやつだよね」
リカルド探検隊が川を発見した
白装束的な服じゃない?
お祭りかなんかかな?

4人の子どもが笑う声が配信にも届く。濡れるのも構わず水浴びを行っているようで、リカルド氏は3分ほどその様子を撮影していた。
川の流れは緩やかであり、子供たちが遊ぶにはもってこい。リカルド氏が降りた場所は河食が起きた1メートル弱の崖になっていて、川辺には座れるぐらいの砂利が堆積している。

しかし、リカルド氏が登山に選んだと推測される■■山には映像で確認できる川は存在しないことが分かっている。

「にいちゃん何してるの?」
「うわ」
リカルド氏が慌てて右横にカメラを向けると長い髪を一つに結んだ快活そうな女児が話しかけていた。
「いや盗撮とかじゃないよ。ただちょっと川があって綺麗だから撮影してただけで」
リカルド焦りすぎww
おにゃのこだ
可愛いね
リカルド氏は子供たちを隠れて撮影していたことをとがめられるのを恐れて必死に弁明したが、その女児はリカルド氏が言っていることや現在撮影していることもあまり理解できていないようだった。
「よかったらね、にいちゃんに見ていってもらいたいものがあるんだけど、お願いしていい?」
女児がリカルド氏に対して伺う。上目遣いで首をかしげるその動作は幼い庇護欲を掻き立てる。その笑顔は誰が見ても敵意を持たせない純然な美しさを感じさせる。
「ええと、うん。ちょっとだけなら」
リカルド氏は少し気圧されるような様子でそれを受け入れた。するとその女児は「やった」と喜んだあと、水浴びをしている子供たちに声をかける。
なにするの
神回確定
おまわりさんこいつです
というか川めっちゃ綺麗だな
「なんだろうね。何見たらいいんだろ。『川きれい』、確かにね、凄いよ。水めっちゃ透明。地元の子しか知らない名所みたいな感じかなここ」
登山はどうしたww
正直登山よりもこっちのが見たい
帰りどうすんの?濡れたまま?
「今日は暑いから絞れば乾くよ服は。あの子たちに山の降り方聞いたらいいかな。うん、登山配信はまた後日にしてもいいかもね。夏はまだ始まったばかりだから」
「にいちゃーーん!!」
子どもたちが手を振るのを見た後、リカルド氏はゆっくりと子供たちに近づく。
「えっと僕は何したらいいの」
リカルド氏が大きな声で返事をする。
「ホダカミソギ見てほしいの!」
「ホダカミソギ?」
子どもたちは「ホダカミソギを見てほしい」と次々にリカルド氏に伝える。
その光景は授業で問題に堪えるために我先にと手を挙げる生徒のような主体性と勢いを感じさせる。
「ホダカミソギ?って何?ごめん知らないわ」
ほだかみそぎって言った?
聞いたことないななんだそれ
人の名前っぽいな
鋼タイプと同じ発音
一人の子どもがバシャバシャと川の水を蹴り上げてリカルド氏に近づいてくる。
「ホダカミソギはね、■■の夏のお祭りだよ。この川で■■した子供たちで■■するんだー!!にいちゃんにはホダカミソギ見てもらいたいの!頑張ったんだよ!」
どうやら川に入るようだとリカルド氏は思い、靴を脱ぎ始めた。
川入るんだ
ここまできたなら入らないと損だね
冷たそー(クーラー効いた部屋から)
「うわあ川に入るのなんて何年ぶりだろ。上着も……一応着替え持ってきてるからいいか。歩いてたら乾くし」
そう独り言ち、リカルド氏は靴と靴下だけを脱いで川へと近づきました。
子どもたちは膝上程度を流れる川中でリカルド氏に向かって手を振ったり手招きをしている。
「ホダカミソギを見て」
「みて」
「ホダカミソギ」
「見てよ」
「ホダカミソギを見てください」

リカルド氏が右足を川へ踏み入れる。映像は大きく傾いた。
水中。
泡沫。
■■。
手足。
映像は激しく回転、揺れを繰り返す。
映像で水底を確認できるものの、その距離感は川幅に対して異常な深度となっている。
音声はゴボゴボとリカルド氏の呼気音と流水音、蝉の音が交互に聞こえ時に交ざり合うようになり、その他リカルド氏の呼吸とは一致しない長音が約5秒間にわたって記録されている。

映像が一度も途切れることなく、岸へと上がり荒い呼吸を繰り返すリカルド氏は上がった勢いのまま川の方を振り返る。

川中でリカルド氏に依然子供たちは笑顔を向けている。
川へ転落する直前の映像と比較しても、子供たちの立ち位置に変化はない。

リカルド氏は呼吸を整えようとする。
8秒。
13秒。
30秒。
蝉の音と徐々に落ち着かない呼吸音だけが聞こえ、画面は小刻みに震え始める。
子どもの一人が、口を開く。
リカルド氏は反転した。わき目もふらずに来た山道へと飛び込み、斜面を駆けあがった。
ありがとう
ありがとう
ありがとう
ありがとう
ありがとう

その時点で配信の視聴者は■■■■人を記録した。
その後、登山コースに戻ってこれたリカルド氏は絶え絶えの息のまま、「ごめん今日はこれでほんとうにごめんなさい」といいその日の配信を終了した。

リカルド氏は今でも配信を続けている。しかしこの配信を最後に外に出ての配信は行わないようになり家での配信に限定されている。さらに飲酒をしているのか酩酊したような情緒不安定な様が見受けられる。

 

 

■■

黄色いエアーポンプを踏むと管を通った空気がビニールプールへと送られていく。
しゅこしゅこ
しゅこしゅこ
規則正しい音が、蝉時雨に溶けていく。
踏み押す度に空気入れは上下に跳ねて、プールの輪はゆっくりと厚みを増し立ち上がってくる。頼りなかった青い縁が丸みを帯びて、夏の日差しを受けてつややかに光り始めた。

無論、この作業をしている俺がプールを望んでいるわけではないので、焦点の合わない目つきでその単純作業をこなしていた。
「にいちゃん、もう少しだよ!」
ホダカミソギはそう言いながら、俺に振り返り笑顔を向けた。四月ごろに生えてきたという八重歯がキラリと眩しい。
俺は返事の代わりに、エアーポンプを踏む速度を速めた。
しゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅ
「おお~にいちゃん速い!凄い、おっきくなってるのが分かるぐらい速い!」
ビニールプールの変化をホダカミソギは見逃すまいと目を輝かせている。
まるで花が咲く瞬間を見つけたような歓声に、少し誇らしい気持ちになった。
「あちい……」
ほとんど照れ隠しのような呟きを独り言ちた俺はラストスパートを決める。

額から滲んだ汗がシタラと顎から地へ落ちていく。
夏だ。
都会では熱波の牢獄のように感じられた日差しが、ココでは不思議と嫌ではなかった。
青い空。
湧きたつような入道雲。
咽るような青くさい草原の香り。
どこかの家前から聞こえてくる風鈴の音。
「よーし! おみずいれるぞー!!」
快活なホダカミソギの声。
ホダカミソギが握りしめたホースから飛び出した水が、出来上がったビニールプールの底を叩き、透明な水飛沫がきらきらと日差しを吸い込んでいる。
少しずつ水位が上がっていくのを小さな足で感じながら嬉しそうに笑う彼女を、俺は縁側に腰かけて見ていた。
水はようやく彼女の足の甲が浸かるぐらいまで溜まったところだ。
ホダカミソギはとても満足している様子だ、俺にとってはただそれだけのことに。
ホースを股で挟み込み、自由になった手で水をすくい、衣服の上から水を浴びる。
「にいちゃん見てみて!」
「何だよ」
「えい!」
彼女は小さな両手で作り上げた水鉄砲で、勢いよく水を飛ばしてきた。
「っぽわ!?」
素っ頓狂な声を上げた俺を指さして、悪戯な笑みを浮かべる彼女。彼女の片側結びは無邪気な彼女を体現するかのように愛らしく跳ねる。
「大人をからかうとこうだぞ!!そら!!」
俺はホダカミソギからホースを取り上げて口を絞り真上に高く掲げた。シャワー状になった水が光の粒になって彼女の頭上に降り注ぐ。
「きゃーーーーー!!あはははは!雨だ雨だ!!」
俺が作り出した雨の中で、ホダカミソギ満面の笑みでくるくると回っている。濡れた髪がが遠心力でふわりと弧を描き、結んだ髪が小さなな水滴を四方へと飛ばす。
なんて自由な光景なんだと俺は見惚れてしまっていた。雨に唄えばのジーンケリーのように。
「にいちゃん、こっちこっち!」
ホダカミソギはプールという狭い枠を飛び越えて俺を挑発する。挑発する、というより、それは雨に焦がれる小鳥のようであったが。
俺はホースを少し左右に振る。
ばらら
ばらら
地を打つ水の音が子気味よく耳に届く。
ホダカミソギはまた雨に濡れ、そして逃げる。俺がホースで追う。
逃げる。
追う
逃げる。
追う。
逃げる。
「あははッ!雨につかまるー!」
庭に笑い声が転がる。
蝉の鳴き声はその笑い声にさえ釣られているのではないか。そうと思うほど、ホダカミソギの声は俺にとっては夏のメインテーマのように感じられた。
勢いよく走っていたホダカミソギが、ふいに足を滑らせた。
「いたっ!」
「ミソ■──」
一瞬の静寂、そして痛いと言ったはずのホダカミソギが何故か不思議そうな顔をこちらに向ける。
視線が交わり、一拍置いて「っぷ」と噴き出した。
どっちが?それは本当に些細な問題だ。どっちでもいいのだ。なぜなら──
「にいちゃん!」
「なんだ」
「楽しいね!」
楽しい。そう、俺も。楽しいと思ったから。
首を縦に振る代わりに、ホースの向きを上からホダカミソギへと向け直した。虹を纏ったシャワーがホダカミソギを直撃する。それでもホダカミソギはずっと笑顔だ。
夏空の下で、最後にこんなに笑ったのはいつだった?

そんな何気ないことに、気がついたところで、縁側で鳴っている携帯電話に気がついた。ホダカミソギに断りを入れて俺は携帯を耳に宛がった。

「もしもし?1218番さん?プリコネです」
「聞こえてるよ。要件は?」
「……帰還の目途が着きました。恐らく一週間後の8月9日になるかと思います。詳細に言いますと8月10日の午前0時です」
「分かった。なんかあったらまた連絡くれ」
「……1218番さん、個人的にあなたは嫌いではないのでお伝えしておきますと、ここに残るっていう選択肢もあるにはありますよ。まあ記憶処理されてモブにされますが」
「いや、それはいいよ。俺には帰ってホダカミソギのすばらしさを世に伝える使命があるからな」
「っすか。分かりました。また連絡します」
携帯電話を閉じる。蝉の声が勢いを増している気がした。
「にいちゃーーん!プールできたよー!」
返事代わりに手を挙げ、縁側から重い腰を上げた。

誕生日、祝えないのか。
それだけが、心残りになりそうだった。

 

 

これは20■■年8月10日関西ローカル番組で深夜に放送された「恐怖!深夜の怪談レイトショー」にて諦従院門音(ていじゅういん もね)によって披露された怪談の録音テープである。


【この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。】

 

[音声再生]

俺が実際体験した話なんですけど、話す前に一個だけいい?最後に皆に聞きたいことがあるので、それを踏まえてこの話聞いてもらいたいんですよね。
あの、俺も業界でそれなりに怖い話を聞いたり実際に話したりしてるんだけど、中には「これ本当にヤバいな」ってやつがある。で、本当にヤバいものほど、見た目とか地味だったりするんだよ。先日教育番組に出演させてもらえる機会があって、そこで学者の■■先生と一緒になった。テレビに出てる専門家の人って本番中はすごい真面目なのに、休憩時間になると急に変な話してくる人が結構いる。で、その一緒に出演した学者の先生もそんな感じで、すり寄ってきて「諦従院さん、ちょっと不思議な体験してみないですか」って言ってきた。
その不思議な体験っていうのが、兵庫県の■■にある昔ながらの風習?に近い儀式で「ホダカミソギ」っていうのがあると。
「ホダカミソギって何なんですか」って聞いたら、先生が笑いながら「口にはしにくいんですよね。見てもらわないとな……、行ってくれるのなら道すがら説明しますから」ともったいぶる。ね、変な人でしょ。普通だったら断るじゃないですか。でも仕事にもなるし、怪談一個増えるかなって思っちゃった。で、行きますって。で行くことになった。
新神戸の駅で先生と合流して、そこからバスに乗る。先生とは結構趣味の話で意気投合しながら車内は穏やかに進んだんですよ。で、かなりもったいぶらされたから「先生、ホダカミソギって結局何なんですか。教えてくださいよ」って聞いた。そしたら「その地域では人の身体を■■として、つまり神様から与えられたものと考えてて、それを少しだけ神様に還すっていう風習、と言うか考え方」って笑いながら先生は教えてくれたんですよ。儀式の体裁さえ整えられていたら、村の子どもなんかは断髪だったり、爪切りをしたり、■■したりでもそれがホダカミソギになる。それぐらいその地域には根付いた考え方なんだって。
あ、なんだ、それなら全然危なくないんですね。ちょっとほっとしながら村の近くまで来てた。
そしたら、村の集会所のようなところから60代ぐらいのおじいちゃんが出てきて先生と俺に気がついて、手を振ってくる。
「先生、ちょうど出迎えようとしてたんや。お久しぶりやね」
「ああどうも。お世話になります。こちら諦従院さんです」
「こちらが。テレビ拝見してます」みたいな挨拶をして。俺はもう単刀直入に「今日は『ホダカミソギ』を見学しようと思ってお邪魔しました」って言ったんだよね。それなら待ってましたみたいにそのおじいさんがにっこり笑って
「ええ、ええ聞いておりますとも。どうぞ暑いですから、中入ってください」
それで集会所に入って二、三世間話してたら、ホダカミソギについてのルールいくつか教えてもらった。色々あったんです、口伝にしないといけない。とか、削いだ物は半紙に包むとか。ただホダカミソギを行うなら絶対だと言われたのは「行う本人がカンと言い続ける限りは止めてはいけない」ってやつで、続けることをカンと言うらしくて、それを言い続けている限りは周りの人間が止めることは許されてないらしい。
で、村では散髪屋がなくて1カ月おきぐらいに理容師の人に出張に来てもらうことになってた。それが今日ってことでこの集会所でやると。
これがまあ簡易的ではあるんだけどホダカミソギになってるからってことで、髪を切りたい村人が集まってる部屋に行ったら。
カン
カン
カン
カン
カン
カン
カン
まー異様な雰囲気。部屋一面に半紙がブワーっと引かれてて、10人ぐらいが髪切られてるんだけど、皆ずっとカンカンカンカン言ってる。あとはバリカンの音が聞こえてくるぐらい。
それならすぐ前にいた女の子がピタッとカンを言うのをやめた。すると理容師さんもピタッと手を止めて、鏡で後頭部見えるようにしてあげてる。
「ありがとう!」
その女の子が言うんだけど、どう見ても切りすぎてるんだよ。ただね、散髪の様子見てる感じはその髪切るのが下手とかじゃなくて、「止められなかったから切りました」って感じなのね。「あ、カンって言ってる間は本当に止まらないんだ」ってのがもうありありと現実として目の前で起こってた。
もう本当に今まで見たことない光景過ぎて薄気味悪いんですよ。すると、さっき髪の毛切り終わって後頭部刈り上げてる女の子が俺に向かって「おじさんもホダカミソギ?」って言ってきた。
やるわけないだろって思うじゃん。
「いやいや、俺は見学なんだ」って笑って返した。おじさんって歳でもないだろとか思いつつね。そしたら女の子もそうなんだーぐらいの感じで。で手洗い場のところまでてててーと歩いて行って「あーまただー」なんてぼやいてたんだよその女の子。だから俺何となく聞いてみたんだよ。「そんなに髪切ってよかったの」ってだったら「カンって言ってるから」って一言。いやいやデザインヘアとかのレベルじゃないのよ。だから俺もちょっと変に食い下がっちゃって「嫌じゃないの、その髪型で」ってデリカシーのないこと言っちゃったらその女の子

「気持ちよかったから」
何が?
そこでふと、鏡に映った背後の景色が視界に飛び込んできたんだけど
カン
カン
って言いながら髪切られてる村人、みんな笑ってんの。というか一番手前の人間なんてさ、■■■■■■。
■■■■■■■■で、■■■■かなーと思ったんだよね。ホダカミソギが■■■■■■■■ならこの先生きててもこれっきりだなと思ったから。
「すみません、俺もこれホダカミソギってできますか」ってダメもとで聞いたらそのおじちゃん満面の笑みで「もちろんですよ」って。
であれよあれよと座らされて普通に髪を切る感じになっていく。髪洗って、乾かして、バリカンで剃っていく。ヴーーーーンつって。その間俺は、
カン、カン、カン。つって唱えていく。で、5分ぐらいたった頃に気がつくんだよな。カンって言った時に布団に寝ころんでる感覚がして、凄い心地よくなった。で、ふわっと口の中にレモンのあの爽やかな酸味が広がって、どこからか木々の揺れる音が聞こえて田舎の縁側の景色が眼前にふっと浮かんで消える。
なんだ。と思いつつカンって言う。親に褒められたこと、肉が焼けるいい匂い。花畑。
カン
友達とゲームしている光景、コーラ、■すること。
カン
■■■■。友達と■■■■。
もうとにかくカンって言うたびに、口に、耳に、目の前に、脳内に美しい感覚が流れてくるんだよ。
もう耐えられなくて。カンって言うことが。
カン
カン
カン
カン
カン
カンカンカンカン
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン

 

ぐちゅって音がしてハサミが頭に刺さってさあ、俺死んじゃったんだよね。


で、最初に「最後に皆に聞きたいことがある」っていったじゃなないですか。俺、後頭部ハサミで刺される前から■■■■されたり、■■■■されたんだけどさ。
俺今どうなってます?
〔音声終了〕

 

 

「帰還失敗。そう、ですか」
伊藤は分かっていた。あの男が五体満足で帰還できないことは。
「そう、1218番の肉体の転送は失敗。今は非番連中で散らばった仏さんの回収だ」
持田は煙草をふかしながら退屈そうに現場の惨状を伊藤に伝えた。
伊藤たちがいる機関は秘密が多い。
機関に所属している伊藤でも『門からやってきた人を監視する』という仕事しか教えてもらっていない。門が何かは分からない。
同僚内では、別の世界からやってきた人間なのではないか、というのが有力な線だった。
1218番。
自分を「プリコネ」と、変わった名前で呼ぶ変わった来訪者だった。
腹周りは丸く、背は中ぐらい、安い髭剃りで青くなった口ひげが特徴的な、どこにでもいるくたびれた中年だった。
こちらに滞在していた18日間、1218番はずっとホダカミソギという現地の少女の元で、ただスイカを食べたり、夏休みの宿題を促したり、縁側で寝たり、川で遊んだりしているだけだった。
「変な人だったな」
「1218番か?なんだ伊藤、あいつの事気に入ってたのかよ。数字で呼ばれる人間に碌な奴はいないぞ」
持田は煙草を灰皿へ押し付けた。この話はここでおしまいだった。

夕方。
伊藤はロッカー室で一人になったタイミングを見計らって、上の棚から小さな紙袋を取り出す。
「これが誕生日プレゼント?」
『プリコネが出来たらでいいからさ。これをあの子に渡してくれないか』
『……本当は俺が渡してやりたかったんだが』
1218番が帰還する前日、彼は伊藤にそう頼んでいた。
1218番のような来訪者が現地民に物品を贈ること。現地民へ私的な情報を伝えること。
そのどちらも、伊藤の所属する機関の規則では禁じられている。
伊藤は紙袋を見つめた。
あんな冴えない中年男性の骨ばった手で作られた作った物を、それを彼を忘れてしまった少女に渡して何が残るのだろう。
1218番はもういない。この世界にも、そして向こうの世界にも。もちろんホダカミソギの思い出の中にも。
少女は、今日も明日も、この先もずっと。あんな小汚い中年男性のとは全く接点のない輝かしい日々を過ごしていくのだ。
そしてそれは正しいことなんだ。
伊藤は、その正しさを疑わない。そしてその正しさは機関の正義でもあった。

俺は、何がしたいんだ。
伊藤は紙袋をゴミ箱へ放り込みロッカー室を後にした。

 

翌日。
「こんにちは」
伊藤は公園で虫取り網を肩に担いだホダカミソギに声をかけた。
「おっちゃん、だあれ?」
少女は純朴な顔つきで不思議そうに伊藤へ問いかけた。
おじ……。1218番さんにはにいちゃんだったのに。
伊藤は内心落ち込んで、さっさと用事を済ませるために懐から物を取り出した。
「君にプレゼント。俺からじゃなく、君を──ホダカミソギをいつも見ている人から」
「?」
ミソギはまたもや目を丸くし、伊藤が取り出したプレゼント包装を注視した。
1218番さん。プレゼントだって言ってたのにあんな小汚い紙袋はないでしょう。
伊藤は彼の細やかさのない雑な振る舞いを思い出し、少し笑った。
「嬉しいけど……。お父さんから『知らない人には気をつけなさい』って言われてるしなー。うーん」
少女は深く考え始めてしまった。コロコロと変わる表情や軽やかで溌剌としたボディランゲージ。ホダカミソギの魅力は、この短いやりとりだけでも伊藤には理解できてしまった。
「分かった分かった。じゃあこのプレゼントはあのベンチの上に置いておく。誰かの忘れ物だと思ってもらっていい。君は中を見てもいいし、見なくてもいい。君が気に入らなかったら、気に入る誰かが持って行ってくれる。それでどうだ」
ホダカミソギの返事を待たずして、伊藤はズカズカと公園入口前にある飲料メーカーのラベルがはがれかけたベンチに歩み寄り、それを置いた。
「じゃあ」と一言、ホダカミソギに声をかけて伊藤は公園を出た。
煙草を咥えて火を点ける。

バレたら顛末書ものだが、『あんな物』を手元に置いたままこの先過ごすよりは幾分かましと言うものだ。
吐いた煙が熟れた夏の隙間をくぐる様にしながら天へと上り、入道雲に重なる。
「おっちゃーーーーーん!!!」
背中側からまるで打ち上げ花火かのような喜びを感じる甲高い声が。
振り返ると左手に羊皮紙で出来た宝の地図。右手には二つの鍵を束ねたホルダーリングが握られており、両の手を頭上に掲げながらぴょんぴょんと跳ねていた。
1218番が、あの宝の地図が示す場所に何を隠したのか。そしてあの鍵はどこの扉を開けるための物なのか、それら全てはホダカミソギが見てくれるだろう。
「ありがとうーーーーーー!!!!!!」
彼女は笑顔で走り、公園の中へと消えていった。

約束は果たしましたよ1218番さん。

 

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縞模様のパジャマの俺イン・ザ・ツイッター

ポストを送信できませんってなんだよ

ポストを送信できませんってなんだよ!!!

 

f:id:k-2bar:20260519224511j:image

 

ポストを送信できませんってんなんなんだよ!!!

 

しろよ、ポストを送信しろよ。仕事だろうがお前の。

 

最近ウマ娘のH(ハイペース)のRTばっかしていたのが原因か、今まことしやかに囁かれている「ツイート数の上限設置」が原因かは定かではないが、とりあえずXに顔を出せなくなりました。

ま~これが嫌なら金払えということかもしれませんが、正直私は大したツイートもしないし面白い方たちを眺める用に近い使い方をしているのでまあこれでもいいかもしれないと思いつつ、気分は監獄から外を眺める寂しい少年さながらの心持ち。

誰か~!!助けて~~!

 

泣き言はこんな感じなんですが、こうやってブログがあるのですから、今までツイッターに載せていたようなこともこうやって気軽にブログに書けばいい。そう思うと私にとってこれは案外いい転機だ。

どうしても「せっかく書くなら読み応えのある記事を書きたい」や憧れの人のブログの雰囲気をまねてみたく思うけれど、そもそもそういった方たちも、自分のブログを書き続けたからこそ今の姿があるのだろう。

今の自分のブログの更新が鈍ってしまうぐらいなら、私も私なりに細かい頻度でブログを使っていくのが吉なのかもしれない。

 

あ~チンポ!!!!!(マフィアの隠語で退勤を指す)

誕生日だったし、一年を軽く振り返る

思えば去年のこの時期、「ひみつのアイプリ」という作品に出会った。

そこからの一年、ライブにアニメにゲーム筐体にと身銭を切り続けたが振り返ってみれば素晴らしい体験だったと思う。

アイプリの中でも、真実夜チィというキャラクターの物語は特に印象深い。
「一番星になる」という目標を掲げながらも中々結果が追い付かない中、それでも歌い続けた「GIRAGIRA STAR」。そして生徒会長となり、慕う後輩も出来た彼女が憧れる側でありながら再び「挑戦者としての自分」を取り戻し披露した「わいるど☆すたー」。

この2曲には彼女が積み重ねてきた時間と覚悟、アイプリとして駆け抜けてきたこれまでが刻まれている。

 

この一年は、人間関係でも印象的な一年だった。

懇意にしているネットの知り合いと実際に会った。同じ空間で話し、笑って過ごす。夢みたいな時間と思い出ができた。「ゲームでバカ騒ぎをする」という本当に小学校の放課後のような風景が見られるのがとても楽しくて、半ばファンのような形でその配信を観ていたのだがある時直接その集いに参加することができた。

今思い返してみても夢みたいな体験だ。

ソードワールドも始めてプレイすることができた。私自身一度はやってみたいと思っていたTRPGをまさかこんな形でプレイできるとは。セッションが終わった後に「ここでこれ使っとけばよかった」や「ペンと紙とサイコロだけでここまで世界が広がるんだ」という驚きや気づきがあり、過ごした時間以上の密度の濃い体験ができた。

 

個人的な変化だが、ドット絵にハマり始めたのも少しある。元々ゲームを作りたいとやんわりとした欲があったのだが、そのビジュアルを自らの手で作る楽しさは想像以上だった。

表に出したものが18つほど、練習で作ったものを含めると30点ぐらいは作れた。

どういう方向でこの趣味を着地させるのかはまだ未定だけれど、何か一つ作品を作れたらいいかな~ぐらいの気持ちではいる。

 

ゲームについて振り返ると、ブログでも取り上げたユミアのアトリエから始まり、シャドバワビ、FFT、ゼルダの伝説知恵の借り物あたりは思い出深い。でも新作ゲームをプレイしている時間よりも、昔買ったゲーム改めてプレイしていることの方が多いな。銀銃とかね。未だにやってます。

ゲームも手軽に手を出せる値段ではなくなっては来ているけれど「ゲームの現在地」を知るという意味でも、新作ゲームに触れる経験は欠かさないようにしたい。でも高いよ~!

 

現実問題。こちらはいいことなかった。
ざっくり話すと仕事では部下関連でいざこざがあった。「ネットで仕事の話をするな」ということで切り上げるが、まあ本当に現在進行形でチンポ(尊敬する人が辛い時にチンポと叫ぶのでチンポと叫ばせていただきます)ですね。

親の介護するようになっておそらく3年。言葉と右半身に障害が残っている父だが思考はしっかりしているし、リハビリにも精を出していて杖なしでも数メートルなら歩けるようになった。嬉しい。リハビリの成果が、というよりは前を向いて、生きていてくれていることが。私には兄と弟がいるのだが、5月には彼らに会いに東京に行きたいと父自ら言ってくれた。以前は私と母が連れ出したようなものだったので、父自ら外に出たいと行ってくれたのは気持ちが上向いた証左だろう。

まあ現実の話はここまでだね。詳しく書こうとすると顔がメメントの時のガイピアーズみたいになるからね。

 

とまあ代わり映えのしない人間のなんてことない一年ですが、自分が行ってみたいやってみたいと思ったものにきちんと飛び込めたことは大きな財産だ。

そして周りの人たちが、それぞれの形でこの一年を生きてくれていた事。その中で自分もまた笑えていたことはなにより喜ばしいことだろう。

 

この一年の目標なんてない!

 

宇宙〈そら〉から希望〈キミ〉まで、墜ちていく。──武器作成と時間停止が攻略の鍵。2Dアクションストラテジー『Million Depth』レビュー。インディーゲームらしい独創的なシステムとSFショートストーリーが光る良作

『Million depth』は2025年11月12日にsteamにて発売された2Dアクションゲーム。
本作は左右の移動とジャンプとダッシュを基軸としたシンプルなアクションで主人公を操作する。一階ごとに出現する地下生物を全て倒して次の階へと進み、地下100万層を目指す。
一層ごとに手に入る武器制作の要となるパーツを集め、武器を強化しながら踏破を目指すローグライクな手触りが癖になるゲームだ。

宇宙で仲間を失い、無機質な宇宙船にただひとり残された少女“モマ”。
彼女は、地球にいる大切な友達“キミ”に会うために、地球に穿たれた巨大な奈落、「ミリオンデプス」へと向かう。
挑戦する度に地質が変化する大空洞ミリオンデプス、集団で襲ってくる地下生物。
それらに対抗するモマの切り札が、時間停止技術「ビオトープジャマー」である。
モマの操作を止めれば、敵も動きを止める。


一瞬を引き伸ばし、次の一手を選び抜く。
シミュレーションゲームのような戦略性とアクションゲームがもつスリルが交差するこの感覚は、従来の2Dアクションの枠に収まらない。
そんなユニークなプレイ体験を秘めた『Million depth』を紹介。

なお、『Million depth』は無料の体験版も配信中であり、本記事ではその体験版の範囲を取り扱っている。気になったら体験版をプレイしよう。というかこれ書いてる時に大型アップデート来た!最強!!

 

 

評価ポイント

◆地下100万層を踏破する為の三要素

 

本作はローグライク要素を備えた2Dアクションで
「落下→戦闘or素材交渉orクラフト→落下」のサイクルを繰り返しながら地下を降りていくゲームだ。
実際にプレイしてみると、この戦闘、素材獲得、クラフトが強く連動しており、降りるごとに自分の“判断が問われる”緊張感が最後まで続く良い仕組みになっている。

 

戦闘】時間を止めて未来を読む、“考えるアクション”の中毒性

 

主人公のモマは特殊な戦闘技術があるわけではない、いたって普通の女の子だ。移動による体当たりとドローンのようなリングに工具を取り付けてぶつけるという手段で地下生物たちと戦闘をする。
「こんな華奢な女の子が地下100万階を降りることができるのか」と不安になるが、ここでゲームの核となる技術“ビオトープジャマー”が真価を発揮する。
操作を止めると、時間も止まる。


敵の攻撃速度、範囲、距離などを見極めながら細かく静と動を切り替え、最高のタイミングで最善の一手を選び抜く。最適解を一手ずつ選んでいく感覚は、アクションゲームでありながら、シミュレーションめいた緻密さがある。
「配置が悪いからおびき寄せて攻撃しよう」、「この攻撃の軌道だったら、後退するよりもむしろダッシュで距離を詰めて一気に畳みかけよう」といった具合に、戦略を立て、細かく時間を動かしながら都度作戦を考えるこのゲーム体感は、「ポーズ画面開いて閉じてを繰り返し、苦手なアクションゲームをクリアした小学生の頃のズルいプレイ」をどこか彷彿とさせる。
このビオトープジャマーというシステムは、アクションの難しさをシミュレーションゲームの思考戦に昇華させるものであり、あの頃の、ゲームへの必死さを思い出させてくれる新しくもどこか懐かしいそんな“ゲームのあるある”を現代にリブートしたかのような仕組みだと感じた。

 

そしてビオトープジャマーの思考戦にアクションゲームの爽快感を追加してくれるのがコンボとかすりの要素。
リングでの攻撃が生物にヒットすると、リングは反対方向へ強くノックバックする。この跳ね返り先に別の生物がいれば、ビオトープジャマーの時間停止を維持したまま連続ヒットになる。これがコンボだ。
これにより一方的な攻撃が可能になり戦闘を優位に進めることができる。ちなみにリングでの攻撃とモマの体当たりを間髪いれずに行うことでもコンボは発生する。
体当たりで生物を移動させ、リングでそのままコンボを繋ぐという合わせ技も可能。配置を調整し一気呵成をしかける快感はまるでパズルゲームのよう。


かすりというのは文字の通り、掠るように相手の攻撃を避けることであり、生物の攻撃を紙一重で避けると「スーパージャマー」のゲージが溜まる。これが溜まりきると一定時間行動をしても時間停止が途切れない状態になり、さらにダメージによって損傷していたリングも回復する。
これはシューティングゲームにしばしばみられるリスクリターンの要素で、このかすりがアクションの緊張感を戦闘にもたらしてくれている。


もう一歩踏み込んで見てみると、普通の女の子であるモマがギリギリで攻撃を避けているように見える。物語的にも非常に説得力のあるシステムだと感心させられるいい設計だ。


操作を止めればゲームの動きが止まるという独創的なシステム上、ミリオンデプスの戦闘には、スピード感や派手さはないのかもしれない。しかし“読み”と“判断”そして生物の猛攻を避けつつ懐に飛び込む”勇気”が凝縮されている。これは他のゲームでは味わえない体感だ。

 

素材交渉】ロボットの機嫌を読む、したたかな駆け引き

パーツは武器製作の部品であると同時に、通貨としても機能する。

地底にはパーツ収集家や商売ロボットがいて、彼らとは物々交換で素材のやり取りができる。ここでユニークなのは機嫌で取引成立条件が緩和すること。
彼らにとって好条件で取引をすると機嫌がよくなり交渉成立のハードルが下がる。高額なパーツや特殊能力でさえも、彼らを上機嫌にさせてしまえば破格の好条件で取引を成立させてしまうことさえできるのである。
クラフトの方向性を決める資源の配分と取捨選択の判断が同時に求められる素材交渉は、妙味に溢れたパートであり、まさにシミュレーションゲームの手触りそのものだ。

 



 

『Million depth』は、戦闘面での「予測→行動→対処」とパーツを「拾う→選ぶ→組む」という二つの螺旋が絶妙に噛み合い、それがローグライクのランダム性によって非常に手強くまたリプレイ性が高いゲームに仕上がっている。

一瞬の判断が生死を分ける緊張感と、クラフトの創意工夫、ロボットたちとの機嫌交渉、それら全てがミリオンデプスを降りていく旅としてコンパクトに統合されているのは、ワンアイデアで無限の可能性を見せてくれる、インディーゲームをプレイしている中でこそ得られる貴重な体験だと感じる。

クラフト】地下で拾ったガラクタが攻略の最適解になる瞬間がたまらない

 

道中では壊れたロボットからパーツが手に入る。これを組み合わせることで、ただのハンマーだった手持ちが剣、盾、トゲなどプレイスタイルに合わせて立派な武装へと変化を遂げる。
このクラフト要素がかなり面白い。
凹凸を増やすことで攻撃力、同型の素材を特定の形で組むことで耐久力が上がる。といった具合で、組み方がそのまま戦闘の強さになってくる。
ローグライクらしく毎回手に入るパーツの種類や形が違うため、「今回の手持ちでどう戦うか」は挑戦する度に変化するのも面白い点だ。
またクラフトはプレイヤーの想像力をいかんなく発揮できる場所としても存在している。例えばマインクラフトやキングダムハーツのグミシップ、キャラメイクなどに凝り性が出てしまう自分としてはこの性能と見た目の両立を考える作業はとにかく楽しかった。
命名もできるので気に入ったクラフトができた際にはオリジナルネームを刻んでみるのも楽しみ方の一つ。

 

◆SFの世界観をシンプルかつインパクト抜群にまとめたストーリー

体験版の範疇でストーリーを解説させていただく。物語の重要な点は伏せているが、多少のネタバレが含まれているので注意していただきたい。

仲間を失い、宇宙船の静寂にたった一人取り残された少女・モマ。擦り切れた精神の中、舷窓に浮かぶ天体に一筋の希望を見る。
──地球。
モマは決意する。大切な友達「キミ」に会うために地球へと、「ミリオンデプス」の奥底へと墜ちていくことを。

地表から地下へと逃れた人類の足跡を辿り、道中ではアンドロイドと交流を重ねながら、モマは一歩一歩と穴の底へと進む。そしてその旅路の中でついにキミとの邂逅を果たすのだが──。

『Million Depth』の舞台は現代の延長線上にあり、太陽フレアの影響で人類の生活圏は宇宙と地下へ真っ二つに分かれた近未来のお話だ。
序盤からSFの魅力でプレイヤーの想像力を掻き立ててくる。それと同時にモマがおかれた状況が、少女一人が背負うにはあまりにも過酷だということにも心を揺さぶられる。
それでもモマは「キミ」に会いに行くという一つの希望を胸に、宇宙を離れ地下へと身を投じるのだ。

SFの世界観をミリオンデプスという一つの舞台に落とし込んだストーリーはシンプルでありながら「希望」や「意志」等力強いテーマでプレイヤーに語り掛けてくる。



 

体験版冒頭のアバンタイトルのインパクトは特筆すべきで、モマがミリオンデプスへ踏み出した時に表示されるタイトル演出とBGMの高まりには、思わず総毛だつほどだった。絶望の中でも少女らしい朗らかさを忘れないモマと、彼女が見せた勇気。最序盤であるにもかかわらずコントローラーを握る手に思わず力が入った。
そしてミリオンデプスで出会うロボットや人間たちにも印象深い。
パーツに執着を見せる者、今にもこと切れそうな者、神に祈りを捧げる者──、彼らはどれも個性的でモマとの会話は和やかなものも多い。
その中でも特に私の心に残ったのはロケットを作る職人ロボット。
「効率だけでは物は作れない」「物を作ることにロボットだとか人間だとか関係ない」といった、人間臭いセリフを人情味のある口調で語ってくれる。

アンドロイドやロボットが登場する本作、彼らとの付き合い方を考えさせられるさりげないやり取りは多くのプレイヤーの心に残ることだろう。


本作の体験版内で迎えるラストについても触れておこう。
モマは辿り着いた地下100万層にてキミと戦うこととなる。
しかしそれは、モマにはもちろん到底受け入れられない形で訪れる。
ここまでプレイしていた筆者は、どこか傍観者として物語を読み進めていた。
だが、この瞬間、モマの心情と筆者の心は「なぜこんなことになってしまったんだ」という絶望と疑問の上に重なりあったのだ。
そして──物語は明確な答えを示すことなく幕を閉じてしまう。
謎が謎を呼ぶストーリーテリング。この「先が気になる」味わい深い“引き”は見事と表現する他ない。
「一体どうして?」というその気持ちを抑えることが出来ず、体験版を終えたその勢いのままにストアページを開いていた。



体験版をプレイして感じたこと

地下生物を前にした時の微細な間合いの詰め方や、リングの跳ね返りを利用したコンボの組み立てが、単にゲームのテクニックではなくモマ本人の必死さや勇気に帰結する体験になっている。つまりセリフやキャラのやり取りよりも、アクションによってモマの人となりを理解できるのだと感じた。

体験版をプレイして強く感じたのは、
システム・演出・操作・ストーリー、戦闘・クラフト・交渉のどこかコミカルな雰囲気さえも、ゲームを構成する様々な要素の質感が「地下へ潜るモマの旅」という一つの方向に統合されている。
本作の体験版は、数あるエンディングのうちの一つに到達できるようになっているので、ボリュームも十分だし満足感も高い。
一つのゲームとしてしっかりと遊べる内容でありつつ、ゲーム部分の面白さと続きが気になる謎の提示が非常に巧みに行われており、自然と製品版に手が伸びる仕組みだ。

体験版クリア時、プレイヤーの前に表示されるのはいわゆるチャート選択が表示された画面
つまり体験版で飛び込んだミリオンデプスはαと呼ばれる世界線の奈落だったのだ。

では、世界線が変わればミリオンデプスはどう変わるのか。
出会ったロボット達は?モマは?そして「キミ」は?

体験版で触れたすべてが、製品版でどう変化してどういう解に至るのか。ぜひ製品版で確かめてほしい。



 さいごに

『Million depth』はアクションゲームが好きなプレイヤーよりもむしろ“考えて一手を打つ”シミュレーションゲームのようなゲームを好む人にオススメできる立ち止まり、状況を読み、最善手を選ぶ、この繰り返しが心地よいゲーム体験へと昇華されているからだ。
しかしシミュレーション然とした緻密さと手触りながらも、2Dアクション戦闘の操作感はしっかりと健在なので、風変りなアクションを楽しみたいという変わり種のアクションを求める方にも是非プレイしてほしい。

ストーリー面ではSFファンはもちろん、フラグ分岐があるADVゲームが好きなプレイヤーにも自信をもって薦められるクオリティである。
激しい言葉のやり取りよりもむしろ、静かで孤独感のある物語が好きな人にもぴったりだ。孤独と恐怖の中でも前に進もうとするモマの姿は、過度な演出に頼らずとも胸に響く強さがあるし、体験版だけでも物語として十分な満足感を得られるほど丁寧に作られている。

また、拾ったガラクタを組み合わせて武器の性能と個性を追求するクラフトの魅力も大きい。毎回異なる素材が手に入るため、挑戦するたびに「今回はどう戦うか」を想像する楽しさがある。

しかしながらこの素材は武器素材でありながらお金でもあるので、物々交換の際はいちいち分解してパーツを売って…と言う風に若干の手間が発生する。
この部分はアップデートに期待したい。

 

こうしたシステム・世界観・演出の“質感の統一”を楽しむタイプのプレイヤーにとって、本作は非常に満足度の高い作品になるはずだ。

一方、派手さやスピード感を求めるプレイヤーには少しもどかしく物足りない印象を受けるかもしれない。本作は直感的な操作でガンガン攻めるタイプのアクション要素はほとんど存在しない。あくまで判断と予測の積み重ねが中心にある。

また世界線の広がりや複数エンディングを前提とした構造上、何度もミリオンデプスに挑むこととなる。その点を考慮するといわゆる一本道のシナリオをテンポよく進む物語が好きな人には相性が悪いだろう。武器パーツのランダム性もゲーム性の要であり、「毎回装備が整わないと嫌」というプレイヤーにとってはストレスになるかもしれない。

 

ストーリーを楽しみたい人向けに、ローグライクのパーマデス(コンティニューなし)を外すことができる。ただこれは本作の面白さや魅力を削いでしまうと感じるため、初回はローグライクモードでぜひ挑戦してほしい。しかしながらコンティニューの際にしか見られない演出があり、『Millon depth』におけるコンティニューとは何かを訴えてくる設計で非常に見ごたえがある。単純に難易度軽減を行っていないその行き届いた作り込みに思わず脱帽してしまった。

地下100万層の先に、何が待っているのか。それをあなたのその目で見届けていただきたい。

 

今月の観た・した・メモった

なんか色々あって週更新できてなかったので、ここはガツンと月まとめで。

観た

  • ひみつのアイプリ(最新話+31話)
     主人公の青空ひまりさんと星川みつきさんが星川さんの留学によって離れ離れになってしまうのがちょっと辛過ぎて、観たり観なかったりしていた。青空ひまりさんがそのことを受け入れ、今いる時間を大切にしようと前向きになったことで作品全体も満を持してクライマックスへ向かうようになりました。31話は真実夜チィの過去話が挟まる回。前回のライブ以降「真実夜チィさんの頑張りはあの星に届いているぞ!」という気持ちが強くなりすぎていて何度も観返し涙ぐんでいます

  • プリパラ(71話~78話)
     プリパラは現在紫京院ひびきさん率いる天才チームとらぁらたちの努力チームが対決したウィンターグランプリ回。努力チームのライブ練習や構想をたっぷりと放送したうえで、そのライブ映像はダイジェスト。片や天才チームは映画見てクルージングして、ライブはめっちゃ豪華。完全に格の違いを見せつけられる結果に。
    いや~きつい。「これ流石に南委員長がかわいそうすぎるだろ!」とキレてる。

  • ひみつのアイプリ Ring Ring LIVE in TOKYO(配信)
     2月14日に東京であったひみつのアイプリ単独のライブ。その配信映像。いや~~~~!!!!!!いい!私は一条寺サクラさんというキャラのフアンなのですが今回も彼女の魅力が存分出ていた素晴らしいライブでした。私がアイプリの事を知ってからもうすぐで一年ですが、アイプリ自身も2期がスタートし、ここまで過去作品とのコラボライブを経て久しぶりの単独だったんですよね。この一年で、私を知らない場所まで連れてきてくれて本当にありがとう。と思うと共にもっと!もっとでっかくなってくれ!とも思う訳!!

  • King of Prism SSS(1話)
    「おい。キンプリを観ろ」と色んな所から銃口突き付けられているので、恐る恐る再生。「あの、この無限ハグとは何ですか?」「すみませんはちみつキッスとはなんですか?」「なんで覇王翔龍剣が出てくるんですか?アイススケート?のショーしてましたよね」「なんで腹筋から爆弾が出てくるんですか?」
    いやプリズムジャンプは心のジャンプだから!!!!

  • エイリアンロムルス
    上映タイミングで観に行けなかったものがようやく見放題に来たので喜び勇んでアマプラで鑑賞。いやめっちゃ面白かったですね。ゼノモーフの意匠が生物の官能的曲線とチューブやコードを思わせる剥き出しの管がメカニカルで構成されており、細部までこだわりを感じらる。このゼノモーフが「閉じ込められた人間を助けようと仲間が扉を開けるところ待っている」シーンがあるんですがここが完璧でしたね。シーン自体は3秒満たないぐらいの短いシーンなのですが、ゼノモーフが持つ残忍性や賢さ、質量を感じる存在感が完璧だと感じました。広大過ぎる宇宙で若者が閉じ込めれれるというまさに原点回帰を感じるいい映画。素晴らしかった

  • ビーキーパー
    ジェイソンステイサム、やりすぎ。目標を遂げるまで止まらないステイサムに笑い転げてしまった。今のところ今年一番笑った映画にノミネートしている。でも実際私が求めているジェイソンステイサム映画って、こう「一つの命を軽んじるやつは天災のような不運のうちに死ぬことになる」を体現する今回みたいなやつなのかもしれないから評価もめちゃくちゃ高い。スカッと笑いたいときはまた見るかも

  • MEGザ・モンスター2
    ジェイソンステイサムで笑いたいという思いから鑑賞。いい意味で続編作る程、話の広がりはないB級映画。いい意味でね。祖父母のうちにあるゲームのラインナップぐらいの定番感。上述したジェイソンステイサム味は思った以上には摂取できないが、その代わり「深海で事故したので歩いて帰ります」の海底パートと「船内に水が入ってきたので副鼻腔から空気抜いて水圧に耐え、外からハッチ開けます」の止まるよハートが面白すぎたので個人的には満足。2度は観ない

  • エディントンへようこそ
    アリアスター監督の最新作が早くもアマプラに。観て気持ちが晴れるようなものではないけれどめちゃくちゃいい映画。ホラーでなくともアリアスター節全開の今作は、市長選挙をトリガーにしてエディントンという町が混沌の坩堝へと変容するその始終を描いている。ヘレディタリーやボーは恐れているが家族という歪みを描いたものだとすれば、今作は町という共同体が、SNSや陰謀論、コロナウィルスや政治によって歪んでしまったといえるのではないだろうか。いやもう「何かが壊れてしまった男」を撮らせたらアリアスター監督の右に出る者はいないんじゃないだろうか。今回は主演のホアキンフェニックスがガタンと壊れてしまってから、物語が大きく傾きそして加速し始めるともう止まらない。逆に言えばそこまでの展開は少し緩慢であると感じたので、序中盤の不安定で所在ない鑑賞感は多少目をつむってほしい。

  • アカギ(1話~6話)
    最近麻雀を始めたのタイミングでアニメタイムズが無料公開を始めた。なんで?
    麻雀知らなくても面白い麻雀漫画。ピンチ、チャンスという展開の妙は未経験でも把握でき、アカギ自身が麻雀未経験者ながらもその天才的な洞察センスをもって経験者の南郷があっと驚く一手を打つところが心地よい。そしてなによりも生に固執しない、囚われないアカギが魅せる大胆な行動が、BGMやSEが控えめで静かに進行していく点が非常にクールに見えてしまう点が面白い。

 

した

  • ソシャゲ(ウマ娘・プリコネ・アークナイツ・レスレリ・雀魂)
    ウマ娘もプリコネも周年で忙しい!!ウマ娘は新育成イベントが来ましたね。ゆこまがイクノディクタスとの噛み合いが良く面白いぐらいステータスが伸びていたんですが、新シナリオは今のところUBどまり。いまいち夢トレーニングを切るタイミングが分かってないのと、完凸出来てるサポカが少ないのも原因か。新加入ウマ娘の中はみんな可愛いねッ…。特にカジノドライブさんが素敵だと思っててシナリオで必ず出てくるので目に毒。
    プリコネ!なんでミソギを出さないのか。キャラライブのキャルちゃんがめっちゃ可愛くてずっと見返してます。単純に私が眼鏡キャラが好きだというのはあるんですが、それにしてもキャルちゃんの眼鏡姿は凄い素敵ですね。周年イベは各世界のトップが性欲丸出しで私こと騎士くんに向かってきてて怖くて泣いちゃった。新イベもそうだけど急にストレートで健全なエロをぶつけられると困っちゃうんだよな。なんだこのゲームは。f:id:k-2bar:20260301182621j:image
    雀魂は最近友人たちがプレイし始めたのでそれに倣う形でプレイ。「捨てた牌ではアガれない」フリテンにいつも泣かされてるが、この仕組みがあるからこそ攻めと守りの要素がはっきりとして取捨選択の駆け引きが生まれているのだと思うとなるほど納得である。それに「一度自分が手を離したものがはたして自身を救うだろうか」という文脈もあるような気がして卓の上に何故か人生を観る。f:id:k-2bar:20260301182700j:image

     

    30分あれば1ゲーム出来て、運が多分に絡む分力量差を覆す結果も起こりやすい。面白くないわけがないのだ。

 

  • 百英雄伝
    ちょっと思うところがあって今途中で止めているゲーム。面白くないわけではないのだけど、「なぜわざわざこんなことするんだろう」という疑問に思うところが多々あるのと、新規IPの割には「精神的続編」の押し出しが強いところに少々気疲れしてしまった。また機会があれば

 

  • バイオハザード9
    8とRE:4をプレイしなかったので久しぶりのバイオハザード。今まだまだ序盤なんですが、グレース操作時のゾンビが全く倒せない&ステルスが出来るような雰囲気でもないのが本当に怖い。インクリボンの復活によって自分自身でセーブを設定できるのがかなりリソース管理的な面白さを付与していると思う。これは是非記事にしたいけどまだ初めて二日ぐらいなのでね。f:id:k-2bar:20260301182754j:image

     

 

 

メモった

2月21日。私にとって2月の生命維持装置、アライズ、フェニックスの尾であったひみつのアイプリ『Ring Ring Live in Osaka』が中止となった。

ネットニュースでも取り上げられているので、ここで事由を述べることは避けておこう。

とても残念だった。数日たった今も刈り終えた後の畑の畝のようにぽっかりと心に穴が空いている。

けれど同時に、今回の中止というこの判断が「安全を最優先にした結果」であったことを思うと、その決断は尊重されるべきと心で思っているのだ。経済的損失、社会的信用への影響、賠償責任の可能性。現実的なリスクを背負いながら、それでも最後まで熟慮し安全を最優先にする決断をしてくれたことに私は深く敬意を抱いている。

アニメの世界に胸を躍らせ、ステージの上のキラメキを真っ直ぐに受け止められること。安心して夢を見られる、見せられるライブであるのは一番大切なことであると思う。

中止という重い決断が、今のこの一瞬の日常に繋がっているのだと信じて、次のライブを心待ちにしたい。

キャル大好きおじさん合同誌『ノー・カードショップ』感想

まったく想像力でいっぱいなのだ。 狂人と、詩人と、恋をしている者は。

『夏の夜の夢』

 

同人誌には明るくないが、いわゆるキャラクターの合同本というのは特定のキャラクターを主体、かくいえば主人公として取り扱った作品をまとめたものを指すのであろう。

しかし『ノー・カードショップ』は、キャルの同人誌を謳っているにも関わらず、表現としてキャルはそこまで喘鳴には描かない。

彼らが描いたのは『キャル一つ分の空間そのもの』だ。

キャルがいた隣の席、キャルの横に立つ自分自身のアクスタ、キャルの質に近づいていく自身の日記。それらを積み重ね、一冊の本となった時、不在であるはずのキャルは、かえって胸中で眩い限りに存在感を放ち始めるのだ。

例えば一つのピースをポケットにしまい、パズルを組み立てるとしよう。絵が完成に近づくにつれて懐にある一つの欠片が必然的に存在感を増し、最終的にそれはそこになくては成立のしないかけがえのないものであると理解するだろう。

彼らがこの同人誌で行ったのはまさにそれと同じことなのである。

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『猫夢【left behind】』ゴッド・静馬氏作

先ほどの「不在の描写」は氏の作品によってより鮮明に描写されている。

この物語では百地希留耶の隣の席に座る、男子学生の視点を描いている。今作は陰鬱で閉鎖的でどこにも行けない学生の低彩度のモノトーンに近い生活をリアリティをもって書き出している。

あだ名の男子学生だけでなく、本名であるカスガもカタカナで表記されていることからも、彼にとっての全ては役割であり構造に近しいのである。百地希留耶、ただ一人彼女を除いて。百地だけが「構造ではない輝かしい生の存在」として立ち上がる。

序盤、彼は友人に百地を下世話な話題に挙げられることの焦りそして苛立つ。しかしながらこの学校という監獄に近しい場所で孤立することへの恐怖が目立つ。

それが「ぶっ殺すぞ……」彼女を代表する一言で反転し、フラストレーションに心を共にしていた我々の胸中を明かしてくれた。

最後、彼が見た夢は冒頭の寺山修司の詩と照らし合わせみると、彼の失恋が決定的なものとして示される。

彼の百地への思い、そしてそれが永劫叶わないところへ行ってしまった切なさ。取り残された彼の感情は、叫びは痛いほど明瞭だ。

プリンセスコネクトの同人誌でスティービーワンダー『stay gold』がこんなにも似合うラストがあるのかと、普通に涙してしまった。

 

ランドソルの独身の男性のたちが両親及び国の負担となることを防ぎ、百地希留耶と旅行に行くことの出来る存在たらしめるための穏健なる提案  るいそん3氏

 

当文書は論説文に近い形態をとっている。無論、私自身自身のアクスタを作りたいと思索していたので参考書のような心持で読ませていただいた。

文の中に散りばめられた冗句が軽妙ながらアクリルスタンド制作への熱意を感じられる説得力のある文章で、論説でありながらも作者のキャラクター性さえも感じられる。特に152cmという数値を意識して制作しようという一文は、我々を試すような挑戦的な文章ながらもそれ以上にキャルの、ひいては意中のキャラクターの実在性を高めるうえで非常に大切なポイントであることを強調している。

一見すると、氏がアクスタ制作を勧めるユーモラスな論説。

しかし、2度目の読書後、ある違和感を覚えた。

このタイトルの引用元であるスウィフトの『提案』はざっくりと説明すれば「アイルランドの困窮を解決するために貧困層の赤子を富裕層の食肉に使用する」というかなり狂気的な論文である。真面目な施策として提案しているのではなく、あくまでもアイルランドの困窮はこれほどまでに切迫しているということを伝えるための痛烈な諷刺だ。

それになぞらえた時、このるいそん3氏の論説はがらりとその表情を変える。

この論説では穏健なる提案を「意中のキャラクターのアクスタと自身のアクスタを用意して写真をとれ」としている。リアルに存在している我々自身を二次元の存在へとデチューンするわけだが。

スウィフトが赤子を食料にしようと変換したように、氏は我々をモノへと転換する。

結果、赤子が国家社会の有益たる存在になるように、我々はキャルと旅行することが可能になる。

丁寧ながら熱心に解説された「自分がアクスタになる方法」。

そう、アクスタという代替・再生産可能の存在になることを氏は推奨している。

ほほえましい感情を切り取り、老いを切り捨て、愛する者の傍らに寄り添える存在になる。そうなれば、この不完全な肉体は一体誰が必要とするのだろうか。

ただ引用しただけではない、これはそのままスウィフトの提案そのものだ。

最後の一文、単純に見れば「アクスタを否定した知人を消す」為のブラックジョークだが、この考え方を辿った時、消されるのは──。

 

ぷらまりさんの日記まとめ ぷらまり氏

 

パチンコとスロット

 

 

 

日記を書ける人を尊敬している。

日記の執筆は「経験の再構成」である。人は日々、膨大な出来事を受動的に通過しているが、それらの大半は整理されることなく忘却される。嫌な出来事だろうが嬉しいことであろうが、寝て忘れれば思い出だ。

しかし日記を書くという行為は、その日の出来事を取捨選択し、因果関係や理由を付け、言語として再配置する作業に他ならない。これはただ単なる記録だけでじゃなく、日々の中の感情や経験の運用である。

実際、氏の日記の中にはパチンコで大負けしたことも、事故したことも、不運に見舞われたことも、病気になったことも書いてある。こんな「大変な思い出」は忘れるに限る。実際私もそうする。だがぷらまり氏はそれを切り売りし、エンタメとして昇華している。これは損失の回収だ。

そしてこれを私たちのようなSNSのフォロワーにも公開してくれていることで、氏の体験をそれぞれで共有可能なものへと言語化してくれている。

実際、ぷらまり氏がいないところで「ぷらまりさんの不運の日記が、キャルっぽくて面白い」と何度も話題に挙がっている。

私が尊敬しているのは、その日常を消費せず、失敗や不運さえも回収し続けんとする、思考実態と運用能力だ。

それに可愛くもちもちしたキャルの絵を添えている。これ以上何よいう必要があるのだろうか。

 

以上が、私が感じたノー・カードショップへの感想だ。

キャルに恋焦がれている彼らを、人は狂っていると感じるのかもしれないがそれはなにも間違いではない。

そも恋とはすなわち狂気であるのだから。

 

 

地球があり、空があり、宇宙がある──。見上げた先にあるロマンを追う傑作サスペンスノベルゲーム『Stellar Code』感想

『プロジェクトヘイルメアリー』、『三体』、『ディスクロージャーデイ』……今SFが熱いことは無趣味な私の耳にも飛び込んでくる。

今回プレイした『Stellar Code』もSFを題材にしたノベルゲームである。個人的に去年プレイしたノベルゲームの中で一番面白かった。

プレイするかどうかは一旦置いといて、「こんなに素晴らしい作品があるのだ」ということを知っていてほしいという意味合いで、体験版で公開されている部分のネタバレを踏まえながらこの作品の魅力に触れていく。

 

 

面白いポイント

SFでじっとりとサスペンスで緊迫感をもって日常からの脱却を描く。現代科学を軸にしたSF描写とポップなキャラクターが魅力。ハードSFに近い読み心地をライトに楽しめる。

7時間を切るプレイ時間。無駄のないキャラクター描写、淀みないストーリー進行が魅せる時間以上のドラマ。

・若人が掴む未来と宇宙への希望的展望。ロマンはかくあるべしという圧倒的光の王道ストーリー。

 

残念な点

・ところどころでソース不明の事象や事例が存在し、無知の自分ではそれが真偽が測れなかった。

・BGMが少し味気ない。

・宇宙クイズが度々挟まるのだが、これが面白かったのでもう少し量を増やしてほしいと感じた。

 

あらすじ

卒業論文の制作に追われる大学生、佐藤大地。人工衛星の研究に頭を抱える彼のもとにもう一つ厄介ごとが舞い込んできた。

超天才の義妹、佐藤瞳の来訪。

瞳にバカにされる毎日に不満を積もらせていた大地は、大学の裏山にてついに”それ”と邂逅する。

円筒状物体。それが出力する暗号。二人を狙う組織の影。

その暗号が宇宙≪すべて≫を変える。

 

 

ざっくり感想

円筒状物体の謎から宇宙人の存在を暴き出すSF推理が主体のファーストコンタクト的要素が前半に、そして謎の組織から命を狙われるサスペンスな展開が後半に待っている。

そしてこの円筒状物体、違法電波を垂れ流し、触れた物体に暗号を出力し、あまつさえ材質はヘリウムである。

そう謎である。プレイヤーと大地はこの謎を一つ一つ解き明かしていくのがいわゆる体験版部分の骨子となる部分だ。

ノーベル賞候補の天才、義妹の佐藤瞳

 

GPSがどのようにして位置情報を取得しているか」という日常にふと浮かぶ何気ない疑問から、宇宙背景輻射、中性子星、アレシボメッセージなど宇宙のロマンに溢れたワードのオンパレード。
そして地球上では存在し得ない材質の円筒状物体の存在。これが出力する謎の暗号。これを解明していくにつれ否が応でも意識は宇宙へと向けられていく。

見事だと思ったのはその天才的な頭脳によって物語を加速させる瞳と、宇宙規模の謎に直面しつつも理解できないなりに考え恐怖を覚えながらも選択を重ねていく大地という血の繋がらない凸凹コンビの兄妹の存在だ。

特に物語前半での二人のコミカルなやり取りは、『Stellar Code』という世界にまだ及び腰であるプレイヤーに興味を持たせる十分であり、物語が進んでいっても円筒状物体の正体や暗号の解を導き出すその道中で我々プレイヤーを決して置いてけぼりにしない。

この兄妹が醸し出すスピード感と共感性は、『Stellar Code』の軽妙なストーリーには欠かせない重要な描写である。

また途中ではさまる謎解きパートも面白い。公式はあくまでフレーバとしての仕掛けだと回答しているが、個人的にはここの面白さが際立っていたからこそプレイヤー(というか私自身が)はこのも語りを主体的に楽しめるといっても過言ではない。

写真に写る惑星や暗号が示す位置を当てる謎解きが出題される

またこの円筒状物体の暗号を解き、ついに宇宙人とコンタクトをとれるようになるのだが、その宇宙人の設定や彼らとのやり取りがとても理に適っていて、「宇宙人はどんな姿をしているんだろう」という子供心をくすぐるような問いに真正面から「一つの可能性」として答えを提示してくれている。これが非常に面白かった。

 

そして後半のサスペンスパート、「円筒状物体の正体を知ってしまった佐藤兄妹を抹殺するために動いている組織」からの逃亡が始まる。展開の良さと緊迫感が非常に魅力的。あえていうのならその魅力的な要素は他方では「遊びがない」と思われるかもしれない。それぐらいこのサスペンスパートは常に駆け足状態だったが個人的にはそこが好みでもあるのでプラス要素として捉えている。

後半ではビューチェンジが頻繁に行われるようになり、黒幕の正体が不明瞭になったり、「主人公と行動を共にせずとも、離れた場所で友人が頑張っている」という熱い展開も繰り広げられ、文章だけでなくイラストでも見せるノベルゲームという媒体を上手に使った仕掛けだと感じた。

 

 

また最後は組織と「宇宙人とのコンタクトの仕方」について佐藤兄妹は真っ向から対立することになる。今まで悪の組織だと思っていたこいつらの行動は決して悪辣ではなく、むしろ「人類を存続させる」と言う意味では正義ともとれる。

いわゆる正義と正義のぶつかり合い。組織側の言い分はこれまでの人類の過ち、歴史、過去の行いから推測されるであろう宇宙人の在り方だった。私も組織側の意見に賛同するところも多くある。

「地球での過去を宇宙人との未来にあてはめるべきではない」というのが佐藤兄妹の導き出した答えだ。
はっきり言ってこれは綺麗言だと思うし、宇宙人への希望的観測でしかない。しかし「宇宙へのロマン」を描いた『Stellar Code』の答えとしてこれ以上ない結論だと、心が震えた。

 

『Stellar Code』は「未来への好奇心」と「出会ってしまったが故の危機」を、誠実に、そして若々しく描いた作品だ。

宇宙を知ろうと歩み寄る選択は、希望であると同時に佐藤兄妹を追い詰める明確な引き金にもなっている。この宇宙へのロマンが、そのままサスペンスへと転化していく構造は実にスムーズであり、物語後半の緊張感とスピード感を強く印象付けている。

綺麗ごと、希望的観測。それでもなお、過去にばかり捉われることなく空の先へと手を伸ばした佐藤兄妹は最後この言葉でこの物語を締めくくっている。

これは実生活でも身につまされるような言葉。

この一文を心に刻めただけでも、このゲームをプレイしてよかったと思った。

 

 

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