某日。
空が闇に染まり街灯りがきらめきだした暮方。死相を浮かべたサラリーマンに混じり私はバスに乗り込んだ。
バスの席は当たり前のように埋まっている。私はお気にの席であるバス右前輪に目を向けた。ババアが座席に尻を擦り付けている。
「ちんぽ!(ファック相当)」と心のシャウトを決めて釣り革を握る。ねっちょりと濡れているのは前任者の手汗のためであろう。汗だと信じたい。精子だったらどうしよう。
「アンチエイリアス!!」
バス乗務員の豪快なジャギー処理宣言によってバスは発進。ご時世柄バスの窓は半開されていて、ビルの隙間に溜まりこんだぬるい風が車内に侵入してくる。
夏。
家の周りは新緑の匂いに満ち、街へ出ればいたるところで陽光が反射しギラギラと暑く、ただ、麦茶が美味すぎる季節。
この季節はですね。
ムラムラします
脳髄の気泡がプツプツと割れる度に「ムラ」「ムラ」と腰あたりにコガネムシのような鈍色の炎が揺らめき立つのを私は抑えられそうにない。
「こういうのは無理に逆らわないで、方向性を与えてやるほうがいいよね」と私の心の中の森田義一、多毛さん(毛が多い方が好き)がいうのでその通りにしてみる。
世界のどこにも合わなかった私の焦点は、情欲の霧散を求めてぎょろぎょろと視点を動かし。
車椅子乗車用スペース。国際シンボルマーク。
車椅子の車輪部分、おっぱいに見えないか?
私は訝しんだ。
脳裏で燦然と輝くオスの本能が、ゲシュタルト崩壊を起こそうと躍起になる。
「車輪部分がおっぱいだとすると、尻からつま先の部分は方から指先を表現していると考えるのがベター。頭部と上半身は据え置きで考えよう」
私は目を細め、またかあっと見開きまたはその両方を幾度となく繰り返した。
「いやパイオツがでかすぎる!ヨースターに胎教された私でもこの巨乳はさすがに脳が受け付けない!」
首から生え手首まで伸びる爆乳に脳が太刀打ちできない。
第一回戦はあえなくきんつばの完敗だ。
『急停車します。ご注意ください』のアンドンがブレーキに合わせて私の横顔をあやしく照らす。バスの車窓に映る自分の顔を見て気づく。
わずかに微笑んでいた。
それはまるで好敵手に出会ったかのように、期待に満ちた笑みだった。
バス停につき、人が降りる。バスの外にはいつの間にかビルに代わり樹木が立ち並び、タイムオーバーが着々と近づいていることを暗に知らせていた。
「戦えて後2回、か……」
私は挑むように車椅子マークを睨む。厄介なのは乳房のでかさ、そして絶妙にずらされている頭部だと私は考え、先ほどと同じように目を細め、寄り目を繰り返す。
貴公よ、乳は二つある。
それは宇宙からの天啓のような衝撃であり、地下からの誘いように甘美であった。
「枠にとらわれるな。もっと自由に、解釈を広げろ」
お先真っ黒の先黒中年が首をひねり、眉間にしわを寄せる。
見える……!見えるぞ!
揺れる二つのMカップ!テーマは躍動、下世話な妄想。見紛う姿は百合の花。
いけいけいけぇぇぇ!!!!
無理かな?
「プッシー(バス発車)」
いつの間にかバスは停車駅を残すところ二つというところまで来ていた。
バスは私が乗車した時の占有率が嘘のようにがらんとしており、それはまるで試合観戦を終えたスポーツスタジアムのようであった。
冷房の心地よい風が頭上から降り注ぐ。しかしこれは私にとってさながら抑圧のように感ぜられた。
『我が快適を与えよう。自由な発想などというものは無用である。』
誰かがそう言っている。
敗北。
その二文字が私の脳裏を掠め、嘆息を漏らしながら独り言ちに「兵どもが夢の中、か」と俳人に想いを馳せ、お気に入りの席へと上り、腰を掛けた。
目頭を押さえ、天を仰ぐ。
しこりたいなら、DLsiteがあるだろう。
そうさ、それ用のものがあるんだ。今は供給豊富な時代なんだからさ。
私は、視線を前に向けた。
あっ!!!!!見えた!好きの糸!!!
平均台でバランスをとるナイスバディ!!
ぼう、と隙間風が乱暴に頬を撫ぜる。祝福であった。勝ったのではなく。克った。これは勝利ではなく、超克である。
私が生み出すまでもなくこの世に物は溢れている。それでも「克」をし続けることに意味がある!!!!
うおおぉぉぉぉぉ!!死ね死ね死ね!!!生きろ!健全なものからエロを摂取せよ!!!
びがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!